湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

遙か6のいい感じのBGMが「結実」なことの周辺

 最近顔の面倒みるときに音楽メインの動画を見ているのですけど
(手が使えないしめがねもしてないのでほぼ何も見えない、体感不毛が卓抜した時間だからです)
 

www.youtube.com

 遙かキャラソン祭の動画↑(公式チャンネル)BGMメドレーで、遙か6は「結実」が流れたんですよね。
 「あ、『結実』っていう曲名なんだ!」と。

 そんなん「結実なき花」とかで出てるキーワードで、エンディングっぽいいい感じな言葉だからだろ~~

 とスルーしそうになったのですが、「実は順序が逆だったんだよー!」となったのでいくつか。

 

 

結実なき花


 言うまでもなく「アダバナ」のことを匂わせ揶揄するための名乗りなわけですが。
 ここで「結実なき花=アダバナ」に関する用語と時系列をまとめておきます。

 片霧氏、国軍強化を目的にダリウスに命じてアダバナ(*1)について調べさせる
  *1)アダバナ:人間の戦闘力を強化する花のような形状のもの。とある邪神が封じられた山に邪神の力の漏出として咲き、邪神の力と繋がっている。実は植物ではない。
→片霧氏、凌雲閣の地下にて培養アダバナを用いた強兵計画を実験開始
→強兵計画の失敗作を「憑闇(*2)」なる病として鬼の仕業かのように流布
  *2)憑闇:アダバナの邪神の力にさらされた人間。所見では花や茨のような植物的なアザがみられ、戦闘力は強化されているが、多くの場合自我崩壊して人を襲う。
→邪神、片霧氏にひそかに巣食う
→ダリウス、里谷村雨ら市民運動グループに接触。反帝国軍を企図
→黒龍の神子召喚、黒麒麟によるテロ
→市民運動グループ、「結実なき花」と名乗って参謀本部へ怪文書し、デモ
→黒龍の神子、四神の封印を解除し凌雲閣地下施設を解体、邪神を鎮める
→市民運動グループ、「結実党」として参政

 こんな感じです。

 「結実なき花=アダバナ」に対し、片霧氏=帝国軍は富国強兵のため利用・破綻、ダリウス=鬼は自衛のため利用するも離反・贖罪、村雨=市民運動グループは反発(=結実)という構図になっています。

 

アダバナとは何か

 さっきアダバナに  *1)アダバナ:人間の戦闘力を強化する花のような形状のもの。とある邪神が封じられた山に邪神の力の漏出として咲き、邪神の力と繋がっている。実は植物ではない。 って注つけたばっかりなんですけど、それは作中の物品としての説明なので、

・言葉本来の意味

・象徴すること

 の話を。

 アダバナという言葉はふつうの使い方だと「徒花」と書き、「徒」は和語では「あだなり、いたづらなり」の意味です。「いたずらに時をついやす」とか言うように、これは無駄で益のないこと、内容がなく空疎であるという言葉です。
 「徒然草(つれづれぐさ)」でも有名な字ですね。「つれづれなるままに」とは「やることもなくって時間をもてあましているのにまかせて」の意味で、「然」とは「であるようす」っていう字であんま意味ないのでつまり「徒」がヒマで手持ぶさたという意味で使われてます。

 で、さっきは作中物品としてのアダバナの注に「実は植物ではない」て書きましたけど、現実では実際の植物に徒花って言うんですよね、そりゃそういう言葉があるんだから。「(咲く時期を逸するなどして)実を結ばず花を咲かすだけの花」のことです。実際は、そこから転じて比喩的に「時代や場を間違えたように、あるいは突然変異的に開花した異才が破滅的な魅力をはなつさま」を「J-アイドル界に咲いた徒花」みたいな感じで表現するほうが目にしますね。

 まとめるとアダバナというのは、鮮烈だが実を結ばないので破滅で空疎である花という意味になります。

大正デモクラシー

 ところで、大正といえば浪漫ですよね。大正桜に浪漫の嵐ですよね(ゲームが違います)。
 そこを「大正といえば浪漫だよ」ではなく「大正といえばデモクラシーだよ!」に持っていったのが光栄の面目躍如で当方は感動したのですが……。乙女ゲーだぞ……。

 デモクラティックなことになってるのは共通ルートのクライマックスが市民運動デモンストレイションであることにも見られますし、村雨ルートはガチです。うおー。

 でも、大正デモクラシーは「大正時代に民主主義思想(デモクラシー)が盛り上がったんだな」ということは字面でわかるし、学校でもそれは民本主義(主権は天皇にあるとしつつ政治文化社会の主体は人民であるという考え方)から発展したんだよとか習うんですけど、わざわざ「大正」って言うそれが「いつ終わった」んだか意識することなくないです?

 諸説ありますが、軍部暴発による満州事変か、治安維持法(反政府的社会運動の取り締まり)か、どっちかまでとされています。

 村雨ルートで凌雲閣地下の邪神がひきおこすはずだった災いが「関東大震災」にあたることが示されますが、治安維持法のきっかけとなった勅令っていつだと思います?

 関東大震災の6日後ですよ。震災の混乱に乗じた軍部による市民運動家殺害、デマの拡散による外国人やマイノリティの殺傷(鬼の一族はそうなったであろうと推測できます)、そういうものの中で「治安を乱し人心を惑わす扇動者を取り締まる勅令」を出してるんです。

 デモクラシーの敗退です。

 村雨は関東大震災を防ぎ、すなわちアダバナ=暴走した軍部の力に民主主義の芽が踏み潰される未来を防いだのです。

 

なぜ黒龍の神子は蝶なのか

 黒龍の神子(梓)の象徴物が蝶なのは、遙か初代の蘭ちゃんのリフレインなわけですが、 単に黒くてちょっと毒々しくてきれいだからなのかなーと今までは思ってた。

 でもBGMライヴの「結実」を聞いて気付いたのが、

「花に実をつけるためじゃん」

 ということなのです。

 黒龍の神子の象徴物である蝶はしばしばやや不吉に描かれます。それは無理もないことなんです。黒龍の神子は破壊を司るから。

 花は実をつけたら死ぬから。蝶は死を呼ぶものなんです。

 『少女革命ウテナ』にこんなセリフがあります。昔、薔薇が散るのを見るのが嫌でドライフラワーや砂糖漬けにし、「永遠」を研究していた女性が今は大人になり、いつまでも年をとらずに力を追い求める男に言います。

 「実を結ぶために、花は散るのよ」

 

ダリア

 少し余談ですが、ダリウスを象徴するダリアの花のことを。

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 ダリア、大輪で華やかですよね~! 和名に天竺牡丹ともいい、牡丹は百花の王、スーパー顔いい野郎を象徴するに不足ない花です。

 でもダリア、基本自家受粉しないので、一株育てても実(種)、結ばないんですよ。じゃあどうすんのかっていうと、周りにたくさんの株を育ててちょうちょや蜂さんに受粉してもらいます。

 そういうことよね

 

実ったもの

 根もなく、実もなく、種もない、アダバナは時を知らず永遠に鮮やかに咲く花でした。片霧氏は国軍をそのようであれかしと思った。その結果帝都の地下に災いを招いたけど、強さがあれば制御できると思った。

 でもアダバナは実を結ばない破滅なので、「前進する力」である白龍の力が「急進的なのに新陳代謝しない」という矛盾に穢れてしまった。だから、「花を終わらせ」て「実をつける」黒龍の力が必要とされた、遙か6はそういう状況だったわけです。

 「結実党」が実らせるのは、わたしたちの歴史では花咲くことなく潰れてしまった芽の実ですが、わたしたちの歴史でもその後紆余曲折とたくさんの人の努力があり民主主義がえっちらおっちら進んできました。

 遙か6の「結実」は愛のBGMでもあります。

 他を圧する力が散るのは、愛を結ぶためだと。

 

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