湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

あなたに生きていてほしい―デルカダールメイルと鎧の歴史

 実は当方は目が節穴なのでニンゲンの見た目的な良し悪しってほとんどわからないのですが、

ドラクエ11のデルカダールメイルがカッコいいのは、装備者の片割れの普段着のおもしろさのおかげでわかることができました!

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 その黄色いピチピチのやつなんとかしなさいよっていうのはあるのですが(今度中世服飾のカラーリングの話もしますわね)、逆を言えば、騎士の軽装としてそんなにおかしくもない(そのはずだ)カタチのグレイグおじさんの普段着さえ、恐ろしい落差に見えてしまうほどに、デルカダールメイルのグレイグおじさんはカッコよかったのです。

 機能性にもすぐれており、機能面や鎧のつくり、身に着け方、使い方はこちらの鎧・武器解説モーメントがたいへん詳しいのでぜひ見てみるといいのです。(@kakitubata29 杜若さん)

twitter.com

 

 このとっても上質なデルカダールメイル、作中の情報ではありませんが『Pash!』公開の設定としてホメロスおじさん主導でデザインしたのだと示されています。さすがスマートですね。わかっている中で一番の頭のいい活躍だと言ってよい。

 上記のモーメントが実用イメージに詳しいため、今日は鎧の概念っていうかソフト面の話を。

 

 

 

防具の目的

 そもそも、一般的なRPGをやっていると我々は「なぜ防具を身に着けるのか」という問いに無頓着になりがちです。いやなぜって防御力を上げてダメージを減らすためやろと思ってしまいます。しかし、「身を守る力」である本来の防御力は一元的な強弱があるものではありません

 たとえば「防具」ではない「身を守る力」の例を『ONE PIECE』から挙げると、

●ゴムゴムの実の能力者・ルフィは全身がゴムの性質をもつので、打撃・銃撃・電撃のダメージが通らない。(刺突や斬撃は通る)

●スベスベの実の能力者・アルビダは肌の表面がすべてのものをつるりと滑らせるので、武器を体に当てるタイプのすべてのダメージが通らない。

●ゴロゴロの実の能力者・神エネルは全身が雷という自然エネルギー流体の性質をもつので、物理攻撃のすべてが通じない。

●相手の短期行動予期のできる(見聞色の覇気)素早い動物系能力者は、よほどの広範囲攻撃でない限りすべての攻撃を容易に回避できる。

 といったように、上記ほどのことは人類にはまだできないとしても、「防具」でなくともそれぞれすべて「身を守る力」として機能するのがわかります。もっと言えば地の利や交渉で戦闘を回避することさえ「防御力」の一種ということです。ドラクエⅠのりゅうおうは多方面にメチャクチャ防御力が高い。

 そして、上記の例にあるたいへん強そうな「身を守る力」も『ONE PIECE』の中では敗北したり苦戦したりしているわけですから、実はダメージを通す手段は何かしらあるのです。ゴムゴムにとっての斬撃のような、それぞれへの対策をあなたも想像したかもしれません。

 それが「防具」と「武器」との関係なのです。

 相手の能力や戦法によって、相性のいいアイテムや弱点を利用したり、あるいは重要ポイントを押さえたりして、目的を達成するのが戦いです。当然相手によっても目的によっても有効な攻め方・守り方は違ってくることになります。

 能力が数値化されたRPGでさえ、ごついアーマーは魔法防御力が低かったりなんかしますね。そして本来の戦闘不能状態は「ダメージが蓄積し、体力が尽きる」というものばかりではなく現代の銃撃にあたるように「一撃当たったらまずい」という状況も多いです。また、対策をどんどん載せればいいというものでもなく、たとえばルフィに斬撃耐性をつけるため鎧を着せても体を伸ばせなくなるなら強みを失ってしまいます。これが防御力に一元的な強弱はないと述べた理由です。

(ただそれを数値的に表現するのはとっても煩雑なので、ゲームで言うとじゃんけんとか属性相性バトルのようなシステムに多様な防御と攻撃があらわれてると思ってください。相性バトルシステムを採用しないゲームでは防御力が一元的になっても当然で、それはゲームのおもしろさの置き所がそこじゃないだけなので全然オッケー、表現上省くべきことなのです)

 ある防具に対して有効な武器が使われるようになり、

ある武器を無効化するために防具が変化する。

 現実の歴史でもそういう弱点を突く能力バトルをやってきているので、単純なインフレーションにならず、マンガのおもしろさも保たれるというものなのです。
(特に『ONE PIECE』ファンというわけではない)

 

 つまり防具には絶対的な防御力ではなく独自の目的が存在し、

それがなければ優れた防具は作りはじめられることさえないということです。

 軍師の建策と同じようにです。

 

防具と武器の進化

 防具と武器は、あらゆる道具がそうなのですが、①目的②手段 の二点がそろったときに発展します。かなえたい目的があっても材料や技術や資金力がなければ実現しませんし、逆に条件がそろっていても需要がなければ注目されません。この、とくに目的に着目して防具と武器の発展を見ていきましょう。

 

「ぬののふく」

 まず旧石器時代から存在する原始的な防具に「服」があります!

 おい……って感じですがドラクエでも「ぬののふく」からだろ! いけるいける!

 いやマジで、だって人類は毛皮がないのですごい大事ですよ、毛皮には体温低下や擦り傷というダメージから身を守るという主目的があります。もっとさかのぼると人類が毛皮のない「裸のサル」なのも体温上昇のダメージから身を守る機能がある「見えない防具」であるとさえいえ(裸の王様とは関係ない)、服は「体温調整」という身の守り方の強みをゲットするすばらしい防具なのです。

honeshabri.hatenablog.com

 ホモ・サピエンスがその排熱機能の高さによって動物として他に類を見ない持久力を手に入れたこと、「毛皮って脱げるの!?」という特性は『けもフレ』にも表現されています。

 さらにやわい毛皮や布といえど武器攻撃に対する防御力も馬鹿にしたものではなく、ずっと後の武器が発展した時代においても、そのままなら肌を傷つけて失血や感染症をまねく「勢いが落ちた矢」や「軽い剣先」などの軽斬撃をノーダメージに抑えることができます。「マント」や「テント」のように中に空間を確保して使えば、かなり勢いを殺すことさえできるのです。布を重ねて縫い固め、ポフポフにした布鎧(キルト)は後世の鎧の下に着る用としても有用です。

 この「服」という防具、しかしやはり「紙装甲」(布)であることも事実であり、原始的な武器である「棍棒」「石斧」「槍」「勢いのある矢」などは布面積を増やしてもぜんぜん防ぐことはできず、基本、攻撃は最大の防御態勢となるほかありません。

 

「かわのたて」

 それらをある程度防ぐ目的で、「盾」が生まれてきます。

 農耕社会となり、狩りよりも人間対人間の戦いを想定せねばならなくなってくると、集落に木石を組んだ囲いや壁を作って中を守るようになります。前方からくる物理攻撃をある程度遮る目的で盾が使われるのは、「物陰に身を隠す」ことのポータブル版なので原始的・自然発生的なことです。

 ここからすでに問題になってくるのが目的による守り方の違いです。いうまでもなく、穴のない巨大な盾にずっと身を隠していれば確実に身は守れるのですが、相手に攻撃することはおろか、相手を見ることもできません(現代の機動隊の透明の盾はこれを解消しています)。攻撃ができない・情報収集ができないのでは、だいたいの戦いにおいて目的を達成することはできません。

 だから盾には戦法によってさまざまな形のバリエーションや使い方が存在するのですが、まあそれは今回置いておいて、要は相手を攻撃する必要がある戦闘では、盾の防御範囲や強度は小さくとどまるということです(古代都市国家時代の集団歩兵は一列に盾を並べて移動し、集団で防御範囲の広い盾を形成することができましたが、個人には無理です)。よって、盾のないところに盾が来る前に素早く攻撃したり、見ていない方向から矢を放てば楽勝です。

 鉄剣などの強い斬撃武器があれば、盾を構えていない「服+生身」の肩口にでも振り下ろせばグジャー!です。打撃武器と比べて斬撃武器の優秀なところは尖った線(刃)に加えた力の圧力を集中させることができる(スキー板が面積の広さで雪に沈まないのと逆)ことで、日本刀のような「切れ味」などなくても圧力の集中で服や生身の組織を裂き潰すことができ、失血・痛み・運動機能の破壊による戦闘不能が狙えるのです。圧力を集中させられる(尖っている)武器は剣・斧・槍・弓矢の矢じりなどです。

 

「かわのよろい」

 「失血・痛み・運動機能の破壊」から身を守るためには、主に首・胴体・骨盤周り・肩周り・肘膝を恐怖の攻撃・斬撃にさらさなければいいことになります。さらに巨大盾のように攻撃や視界を制限しないためには斬撃抵抗力のある「服」を着る必要があります。そこでうれしい防具が「レザーアーマー」です。

 薄いなめし皮をペタペタして作っただけのものでも、小~中型の獣の爪牙やチンピラの刃物程度を防ぐことができますし、もっと強度を上げて厚手の硬化皮を作り、それに金属のスタッズとかトゲトゲを仕込んだならば(北斗の拳をイメージしてください)、多少の打撃・斬撃は防げるようになります。しかも軽量なので、「ぬののふく」から「かわのよろい」への変化はゲーム的な単純な防御力上昇のように考えていいところです。

 しかし獣の皮である以上、斬撃や槍・弓矢の刺突の「圧力集中の力」が強ければ裂けたり貫通したりしてしまい、ジ・エンドです。

 

「うろこのよろい」「くさりかたびら」

 斬撃・刺突の「圧力集中の力」から全身を守りながら攻撃する目的の「服」としてひとつの完成を迎えたのが「ラメラアーマー」「チェインメイル」です!

 これらは両方、無数の小さな金属パーツをつなぎ合わせることで隙間のない金属の強度それなり(金属の一枚板をそのまま装着するよりだんぜんマシ)の軽さ、そして皮鎧にも勝るしなやかな運動性能を得た鎧です。

 

 「ラメラアーマー」というのはドラクエの「うろこのよろい」のように皮より強度の高い薄くて小さなパーツ(皮や金属小片、ファンタジーでは竜種の鱗など)を、魚の鱗のように重ねて並べ糸でつなぎ合わせることで、まさに魚のようにしなやかな動きを可能にします。

 胴体や肩に装着するにはサイコーといえ、日本の源平合戦っぽい「革おどしの大鎧」とか三国志もので鎧の表面が小さくキラキラしてるやつとかはこれで、主にアジアで発展しました。 

   『フォーチュン・クエスト』のクレイ・S・アンダーソンの「竹アーマー」もこのラメラアーマーにあたります。カラカラ音が鳴るのでギャグ要素になっていますが、金属製ラメラアーマーだとこれが無双でよく足を踏み出したときとかに鳴ってるチャリッ…みたいなカッコいい音になるわけですね。

 

 一方西洋では「チェインメイル」のほうが勃興しました。

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 夜でマジごめんだけどこの、全員の腕とか脇のところに見えてる黒っぽい部分がチェインメイルです。ホメロスおじさんの肩鎧と肘当ての間が網目状になっているのが見えると思います。

 「チェインメイル」=「くさりかたびら」というのは鎖を編んであるのではなく、針金でできた小さな輪っかを鎖のような方法で上下左右につなぎ、鎖状の金属ニット服にしたものです。針金を編み合わせたものが斬撃を通さないことは現代の金網フェンスをイメージしてもらえれば容易にわかると思います。フェンスの輪っかが小さくなればなるほど密度・強度は増し、輪っかが小さければ槍や矢の刺突も防げます。つまりチェインメイルは網目が壊れない限り「圧力集中の力」をほぼ通さないのです!

 また、輪っかの小さいチェインメイルは斬撃・刺突を防げるばかりでなくマジで重いニットみたいなもんなので、上のスクショのとおり服みたいに全身に着て関節も動かせるしスクショのように上に服とか鎧とか重ね着できるというわけです。また、輪っかは一応空洞でもあるので通気性や(金属板に比べた)軽量化にも一役買っています。もうこれでいいんじゃね? 事実防具の進歩としてはこれはかなりすごくて、現代の防刃チョッキも基本くさりかたびらです。

 これにダメージを通すためには、もはや「圧力集中」は通じないわけですから「重いもので叩く」という原始に戻ってきます。メイス、ハンマーですね。だからドラクエ11世界の各王城兵・警備兵や鎧騎士たちには魔物たちの攻撃が魔法か大型魔物の重さくらいしか通りません。

 しかし、このあたりから明確な弱点として「鎧が重いから疲れる」が出てきてしまいます。密度を増せば増すほど当然金属の量は増えるし、チェインメイルは服みたいに着られることが長所でもありますが、服ってことは肩とか腰のベルトに全重量がかかってくるということでもあります。疲れは死に直結しないようですが、防具をつけての戦闘というのは一人相手を倒せばいいのではなく長時間の行動を目的としていることが多く、それが果たせなくなるなら「身を守る力」としてマイナスだということになってしまいます。

 

「はがねのよろい」

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 て言ってるのにそれ以上重くなんのかよという感じでついにデルカダールメイルが登場してきます。なんのために!?!? こいつがよく最強と言われる中世防具「プレートアーマー」です! しかも馬にまで。

 長所はもちろん鎖帷子以上の攻撃耐性です! ラメラアーマー、チェインメイルは可動性ゆえに「隙間」というものが存在し得て、細い刺突が通ることがあったり、メイスで叩かれると痛かったのですが、鎖帷子の上にプレートアーマーをつければ急所に隙間はほぼなくなるし鎧と体の間にかるく空間ができるので打撃の衝撃を吸収してくれるのです。

 あとすごいカッコいい。

 

 いや、それにしてもよ……。

 

 もちろん、防御ではなく攻撃の前提として、「重い」ということは強いということです。チェインメイルに対して有効な攻撃は「重いもので叩く」だと言いましたし、騎士が他を圧倒して強いのも馬という重くて大きいものをスピードをもたせて突撃させるからです。ものどうしが激突する衝撃のエネルギーは重さ×速さの二乗です。つまり交通事故です。トラックです。ひとたまりもありません。

 しかしエンジンと車輪で走るトラックと違ってこっちは文字通りの一馬力しかないわけで、あまりに重ければその速さの二乗が上げられないことになってしまい、攻撃力としても下がります。あまりに重い武器もこれと同じですね。また、馬は重ければ速度が出ないだけでなく、人間同様に疲れやすくなります。

 何事にも程度というものがあり、工場などの生産でいう損益分岐点のように、装備の重量にも有利不利の分岐点があるわけです。

近世に板金技術が発達して完全発注者サイズのオーダーメイドで厚さ1mmそこそこの薄型プレートアーマーができてからは、現代にも典礼用や競技槍試合などでそれが使われています。そのため武具の説明ではプレートアーマーを鎖帷子を含め20~25kgと想定されることが多いですが、見ろよこのデルカダールメイルのグラフィックを。塗装を含めたってどう見ても1ミリってレベルじゃねーぞ。実は木彫りなんじゃないのか?

かりにデルカダールメイルを少な~く見積もって厚さ2ミリの鋼鉄(はがね)製とした場合も、計算してみたら全身の甲部で40kg超、グレイグおじさんの体は表面積がデカいので鎖帷子を入れれば50kgぐらいとなってしまいます。

 攻撃力を上げ、防御力を上げて、先んじて相手を戦闘不能にする戦闘行動をたくさん繰り返すうえで、これは明らかに損益分岐点を超えています。グレイグおじさんは奇跡的に体力超人なので問題なくできちゃいますが、とにかく上の目的をもった装備としてはマイナス点だということです。

 当方は「防具考証がおかしい」と言いたいのではありません

 先程も言ったように板金技術が発達する前に実際そういう鎧はちゃんと使われていたわけですし。

 プレートメイルはRPG的にイメージする防具観とは「目的が違う」ということなのです。

 目的の違いこそが本稿のテーマなのですから。

 

命の価値

 プレートアーマーが使われ、また中世騎士物語の定番装備となった経緯を語るには、現実世界で言うならば十字軍遠征をはずせません。

 もちろんファンタジー世界の歴史と現実の歴史は違いますし、クレオパトラの鼻がもう少し低かったら歴史は変わっていた…とか言うとおり歴史は偶然の積み重ねでこうなっているだけなのですが、しかし歴史のひとつひとつの事件ではなく道具やシステムの普及には必然的な①目的②手段がそろっていなければならないのです。それは歴史を異にする世界でも同じです。

 なので十字軍遠征という個別の歴史事件ではなく、プレートアーマーの目的をつくった要素に着目するならば、十字軍遠征は

●騎士たちの領地から遠く離れた地で

●常識が通用しない相手と

●ものすごく長期間戦った

という性質をもつ歴史事件です。

 

 経緯を軽く説明すると、キリスト教ローマ教皇の権威が高まっていた当時、教会はイスラム世界を指して「聖地エルサレムを奪還せよ」と各地の王や諸侯(つまり騎士たち)に呼びかけ、騎士たちはキリスト教世界の栄光のためとか言いながら主にイスラム世界の当時世界一豊かな富を得るために遠征に出かけていったのです。

 中世の騎士国家どうしの戦争というのは、いうても現代みたいには戦闘で人があんまり死なない(教会の道徳や戦争ルールがあるし、可能な限り敵は捕縛して身代金をとるから)のですが、十字軍遠征は全く違います。異教徒にそういうルールが通用するわけないですし、容赦なく命(たま)を奪(と)ろうとしてきやがります。だから戦って死ぬ可能性がすごく(当社比)高い。ホイホイ戦争をする王や諸侯であっても、十字軍に加わるとなれば妻や母親が泣くのです。ここはドラクエ世界の魔物との戦いとも似ていますね。

 加えて戦場は騎士・兵士たちが普段暮らしている領地からははるか遠く、これは中世の戦争としては驚くべきことです。しかも利益になるものをたんまりブン盗ってこなければリスクを取って行った甲斐がないのですから、長丁場も覚悟しなければなりません。

 そこから導ける諸侯の「目的」は、「指揮官である自分は絶対に死ぬわけにはいかない」です。

 指揮官である、家中の騎士や兵士たちを率いてきた高位の領主騎士は、ムダに死にたくないのはもちろん、死んだら家中のみんなが異教の地で路頭に迷って殺され、天の国に行けないおぞましい葬られ方をされるかもしれません。キリスト教徒どうしの戦いでの身代金の額でも同じように、命の値段は違います。指揮官は生きて指揮して生きて帰るだけで十分な価値があるのです。

 斬撃・刺突・打撃…それらは指揮官が前線に立たなければほぼ防ぐことができるでしょう。絶対に死なないためにさらに防具が考えなければいけないリスクとは、流れ矢です。三国志でも流れ矢で指揮官・軍師的なクラスの(前線にいない)周瑜が重傷を負ったり龐統が死んだりしていますからね。戦争っていうのは現代でいう弾幕みたいにとりあえず矢を射かけるので、矢の雨の中で偶然ちょっと遠くまで勢いを失わず届いてくる雫があり、それがうっかり指揮官に当たるかも。重症にならなかったとしても、カスリ傷ひとつでも遠い異国では十分な治療ができずに死につながる可能性は十分にあります。

 プレートアーマーは、この流れ矢を弾き落とすことができます。デルカダールメイルでは表現の都合上『弱虫ペダル』でたまに透明になるヘルメット的な感じで省略されていますが、実用上は他のデルカダール兵のように兜もついているでしょう。ふいの方向からのいかなる小さな攻撃も通さないということができるのがプレートアーマーです。2~3ミリあれば騎士世界では禁止されたほどの殺人兵器・クロスボウでも死なないかもしれません。

 遠征においては指揮官は生きているのが仕事です。関羽とか趙雲みたいに赤兎馬で自在に動いて一騎当千する必要はまったくない(グレイグ将軍は困ったことに関羽とか趙雲みたいに戦うのですが……)。

 だから馬にだって鎧を着せて、重くていいのです。一人で動くなっつってんだろおい。

指揮官だろう貴様は。

 

 

生きて帰れということ

 目的がわかったプレートアーマーですが、重さのほかにもさらにまだ弱点がありまして……

●全身金属板なので暑いところに行軍したら焼け焦げる(使用不能)

●暑いところでなくとも人間の排熱性という防御力がマイナスにまで落ち、熱中症になる

●同様に寒いところに行軍したら凍傷一直線
(グレイグも仲間会話で寒いとヤバいことを語っています)

●クソ高価かつ完全採寸オーダーメイド(よって一般兵士には配給不可)

●運んだり着付けたりするために従士が必要

このように面倒だらけなので、「絶対に生きて帰る」という強いやる気がない限りプレートアーマーはまさしく重荷です。当然主人公とグレイグの二人旅の旅装には向かないことでしょうから、仲間になるグレイグがデルカダールメイルをつけていないことは自然です。

 いや、デメリットがあったとしても「絶対に生きて帰る」という強いやる気などふつうの人間ならみな持っていて、資金や地位が許さないからプレートアーマーをつけられないだけでしょうが。

 しかしグレイグはメガザル野郎であり、「最後の砦」時には特に自らを罰するように戦いに戦い続けていました。最高位の将軍のくせに趙雲単騎駆けすることからしても、彼は自分の命を他の大事なものより軽んじていることが見てとれます。

 

 

 重石を載せなければならないでしょう。結局それは振り払われてしまったのですが。

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 二人で王国一の騎士にならなければならないのですから。

 

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