湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

覚醒の布―衣装色で読むドラクエ11①

本稿は、ドラクエ11のキャラの服の色、衣装デザインの意味について読み解いて考察していきます。

 というのも前回の2つの記事で「ロトのしるし」(=ロトの紋章)について話したので、

homeshika.hatenablog.jp

次は今度出るゴージャス何?とかについてくる各キャラクターのピンズの紋章について西洋紋章学をふくめて読むよ~☆みたいなことを言ったのですが、

紋章の描画のカタチの前に、このピンズがついてるじゃないですか。

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 ハァーッ! バチンバチン!

 

 

 

 

色彩豊かな中世

 いったい何をセルフビンタしているかというと、前回記事でロトの紋章の話をした、かつ日本人である我々にはぱっとイメージのしづらいことではあるのですが、

西洋の紋章とは、基本的にカタチよりも色の組み合わせを優先して考えられるものなのです。なぜなら目的が戦場で指揮官を判別するためで、盾をはじめとした軍装に遠くからもわかるようにでかでかと表示しなくちゃだからです。日本ではそれは旗色や馬印でやるので。

つまり、読売ジャイアンツでいうと、日本の家紋の役割は帽子についてる「GとYを組み合わせたマーク」に近く、

西洋の紋章の役割はユニフォーム全体の「い地にい字とアンダー、橙色のライン」という色づかいによるチーム見分けの機能に近いということです。

 もちろん時代が下っていくにつれて色の組み合わせだけじゃなくて周りにガンガン絵が増えていったりするわけですが、本来の西洋の紋章っていうのはそうです。だからロトの紋章とか今回のキャラエンブレムみたいにシルエットデザインになってるやつはカタチこそ西洋の大紋章に似てますがかなり日本の家紋に近いですよね。

 その紋章のシルエットデザインの話はまた今度するとして、なので今回はまず「キャラクターを示す色」の話からしたいと思います。

ドラクエ11のキャラは中世騎士の盾や軍装のような表示をしてないので、服の色に表れるわけです。実際さっきのピンバッジも半数以上は服の色になってますし、服の色=イメージカラー=キャラクターの性質というのは日本人ならば戦隊もので刷り込まれているフィクション読み取り文化ですね。

 

 しかし西洋では戦隊ものとかよりずっとずっと古く、着ている服の色が人間の性質を表すという強い観念があるのです。西洋絵画の読み解き(図像学)の一番基本、基本であるのであんまりあえて語られないくらいの基本は人物の服の色です。たとえばルネッサンス以降、鮮やかな青い衣の婦人は聖母マリアを表すことが多く、そこから貴人たちがこぞって鮮やかな青い衣をまといたがったため、貴人の肖像にも増えていきます。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fa/Immaculate_Heart_of_Mary.jpg

 古代(ローマ時代)には色彩は白・黒・赤くらいしか積極的に使われてこなかったのですが、中世はゴシック様式の教会のステンドグラスにみられるように、多様な色が認識され、庶民にいたるまでさかんに使われました。ゴシック様式はローマ帝国衰退の一因になった「ゲルマン民族大移動」でローマ帝国の領域に流入してきたゴート族の得意とした建築です。よく古代ローマ帝国の栄光や叡智が失われた「暗黒時代」とか言われる中世ですけど、それに反してロマネスクからゴシックに変遷してヨーロッパの色彩は豊かになりました。注意しなければならないのは、この中世の色彩の豊かさは現代のヨーロッパとはものすご~く違っているということです。

 現代のヨーロッパ発の、特に男性フォーマルファッションを思い浮かべてもらいたいのですが、だいたい白黒ですよね。現代日本でもメンズのドレス系ファッションといえば白と黒をベースにしろというくらいです。これは中世から近世~近代にいたるまでの宗教改革、とくにプロテスタントの禁欲的な勢力によって「色つきの服(という表現自体がモノクロ印刷によるプロテスタントの拡大を示しているんですけど)を着るなんてけしからん、とくべつな染料を使わない布を着なさいよ、黒とか」という文化が広まったからです。それで現在のヨーロッパのこざっぱりとしたファッションの基本である、黒・白・グレー・ベージュが確立したのであって、それまではもっとカラフルな服がふつうでした。当たり前じゃないんだねー。

 つまり、

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伝統のピチピチ☆バニーちゃんスーツ。こういうのとか

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こういうののことですよ。(これは当方のドラクエⅩのキャラです)

 中世ではこのように、胴の身頃をセンターマンにしたり、互い違いにしたタイプの服がいっぱい用いられました。そのうえで、高貴な色があったり、純潔な色があったり、神聖な色があったり、怪しい色があったり、ときめく色があったり、卑しい色があったりして、まとう人間が何者かを主張したり、あるいは服の色によって階級がはっきりわかったりしたのです。つまり日本のえた・ひにん非差別階級とされた人々が江戸時代に絹や木綿の服やカワイイ色柄を着て人前に出るのを禁止されたように、「おまえはこれを着なければならない」「これを着てはいけない」という(ときに暗黙の)差別ルールがあったのです。

階級がはっきりしてることに特徴があるデルカダールの都でも、公式設定では言われてないですが衣服の色に明確な傾向がみられます。

調査員が見てきた限り、デルカダール地方では属する身分や階級が色で明確に区分されているように思える。それは最上位の貴族の紫、上級市民の赤、一般市民や騎士の濃い青、下層の薄い青や緑色といった案配だ。

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たとえば中世ヨーロッパ社会で「黄色」はあからさまに忌み嫌われ、これを着てるやつは物語の中でも卑しいやつか嫌なやつです。さらに、同じような色でも鮮やかさなどで意味合いが異なってくることもあり、たとえば濃い青は聖母マリアなど聖性や敬虔さを表すのに対し、「薄い青」はローマ時代「ゲルマンの色」として異民族の色だと卑しまれ、好まれませんでした。

 さっきから何を言ってるのかわかる?

 

 

戦士の青・やべえ奴の黄色―グレイグ

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これのことだよ!!!!

 

 はい、まずは当方に「デルカダールメイルってかっこいいんだなあ」と貴重なことを気づかせてくれた衝撃の色彩から見ていきましょう。構成色はメインが薄青くすんだ青黄色です。

 市松模様に関してはシルビアさんなどが終わった後にまた言及します。

 

 先程述べたように、青というのは扱いがいろいろ変わってきた色です。今は聖性や敬虔さのある色としてみられ、これが騎士たちが着ている服の青に反映されています。ドラクエ8でもそうでしたが騎士は騎士修道会で活動や修行をする者のほか、神の秩序の守護者であることを誓う者なので青っていうのはイメージに合っているわけです。しかしそれは後ろのデルカダール兵のサーコートの青のことであり、これを「輝く青」とか言います、グレイグおじさんのチュニック(騎士などの着る貫頭衣)の青は違いますよね。この薄くくすんだ感じのブルーグレーみは古代ローマ時代に嫌われたゲルマン青の印象に分けられるとおもいます。実際こう、感覚として、デルカダール兵の青に比べてあんまカッコいい色じゃないよな……。

子供のときも似た色の服着てますけど、日本的感性からするとなんか男児っぽいし。

まあ王侯や指導者階級としての騎士よりも、古代ローマにおけるゲルマンのほうが「(地位ゆえではなく)戦う者」であるわけで、そういった意味で将軍の権威を脱ぎ捨てたグレイグおじさんにはふさわしい色です。

 しかし一番問題なのが黄色いアンダーなんだよ。

 黄色は、日本というか中華文化圏ではむしろ高貴な色という方向で一般民衆に避けられてきました。だからちょっと感覚が違うし、ドラクエ11でもプワチャットやドゥルダなどの東洋的文化に関係することなどは東洋読みをすべきなのですが、グレイグおじさんは明らかに西洋なので言っちゃうと黄色はヨーロッパ文化でもっともきちゃない色です。ヨーロッパの色彩象徴学の基盤となる書物『色彩の紋章』をみると、

問 もっとも汚い色は何色か?

答 タンニン色である。

―シシル (著)、伊藤 亜紀 (翻訳)、徳井 淑子 (翻訳)『色彩の紋章』

 タンニン色ってどんなか!?

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3a/Tannin_heap.jpeg

 まあそういうことですよ ドゥルダの僧侶たちの黄色い衣も仏教の糞掃衣、すなわちうんこ拭くぐらいしか使い道がなくなった布を縫い集めて衣服にしていたことに由来するわけですからね、黄色は本来的にはきちゃなくてダメな色なんだな。戦隊ものでイエローがカレーキャラになりがちだったのもうなずけるというものです。

 グレイグおじさんはこれなど私服全般を支給されたやつをそのままずっと着てるという設定なので、デルカダールの人間のサイズからは際立ってでかいし、とりあえずサイズがなんとか入るやつを選択肢なく渡され(ピチピチである)、おかしい色でも全然頓着していないという抜け作であることがうかがえます。

 こういう「橙」より「からし色」みたいな黄色の服をこんな面積で着てるキャラクターは他にいない(セーニャの腰布、ロウのボトムについては後述します)ので、もし中世ヨーロッパで黄色が嫌われてることを制作側が意識して考えてなかったとしてもやべえ色として使われていることは確かそうに思えます。

しかもこの薄青のチュニック、なんか洗いまくってこうなったみたいな色してるようにも見えます。高位の階級の者がデルカダール王の赤!紫!白!のように輝く色をまとえるのは、落ちにくく鮮やかな高価な染料のものを、落ちてきたら新しいのに替えるからです。おまえは高位の階級の者なんだからもっといい色をまとえ。

逆に言えば、くすんだ色、あせた色、白くも色がついてもいない布は低い階級のしるしだということです。

 

くすんだ青緑―カミュ

 スクショを探してコピーライト入れての作業が面倒になってきたので、以降だいたいの色の要点の絵でいきます。

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  くすんだ色といえばカミュ兄貴です。構成色はメインくすんだ緑くすんだ赤です。

 実はグレイグおじさんを除くパーティーメンバーの中で、白・黒・そして先程述べた「輝く色」以外を身に着けているのはまったくカミュだけです。首飾りさえくすんだ色をしています。くすんだ色は卑しい身分の衣服を表し、デルカダールの下層民にもくすみ緑が多いことはみちくさガイドでも調査されている通りです。王族・貴族・大樹の申し子というパーティーメンバーの顔ぶれの中で、唯一カミュが生まれ育ちのきらきらしくないことを示しています。

 カミュは最初このくすんだ緑のフードをかぶって現れ、カミュが与えて主人公が装備することのできるたびびとのフードもうっすらと緑がかった灰茶をしています。これらの色は安っちくて下級な色であるとともに、現代の軍隊の野外作戦で使われる迷彩柄と同じ色彩であり、見つからないように身を隠すのには最適の色です。ここは同じ卑しい色でも黄色とは大きく違っています。黄色はもっと積極席に奇妙キテレツさを目立たせていく方向です。

下級な色下級な色って失礼なこと連呼してますが、下級な色は同時に、現代的には「あえてそういう渋い汚し感のある色を着ている」という粋なカッコよさにもつながってくるわけで、スーパーイケメンにも違和感がありません。

 このような理由で、くすんだ緑は育ちがよくなくて盗賊であるカミュを表すに適した色であり、また、この色彩の盗賊カミュが相棒であることによって、日の当たる市中を歩きにくいお尋ね者となった主人公の境遇を常に意識させることができるのです。

妹とともに暮らしていたころのカミュは妹とそろいのわりと明るいはっきりした色を着ていることから、くすんだ色を着ているのは手に入らないからというよりも、盗賊をやっていること以上の彼の心の後ろめたさを隠すものかもしれません。

 紋章のカラーも、緑イメージのやつらが多いため「くすんだ青緑」になっていますが、これもまたくすんだ下層の色味であり、かつ、北国の海の色です。

 

輝く―セーニャ、ベロニカ

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 カミュのくすんだ緑・赤に比べてバチッとした緑・赤を身につけているのが双賢の姉妹です。バチッとした「輝く色」をまとっていることは気高さや育ちのよさを表します。それだけでなく、彼女たちはふたりでひとつの大樹の申し子であり、紋章の図柄を見ても枝葉のセーニャ花のベロニカという植物的セットになっています。

この色がエプロンドレスでは逆転するように、ふたりのイメージカラーはこのふたつがセットです。緑と赤はまた補色の関係にもあり、紋章およびスキルパネルの相補的な図形からみてもふたりが真逆でありながらひとつであることを示しています。

 セーニャの構成色はメイン深緑黄色、白です。黄色かよ!ヤベーやつじゃん!となりそうですがセーニャの黄色の意味については後述します。

 緑は、またマルティナの緑でも違う意味合いが読めるのですが、じつにさまざまな意味をもった色です。というのも緑というのは萌えいづる生命の色であり、したがって中心的には「移ろいやすさ」を表すからです。移ろいやすさにはいい意味も悪い意味もありますよね。

 セーニャの深緑に関しては、先程言った大樹の枝葉の色であり、またドラクエ11世界の他のモブキャラ、メイドや看護師などのケア役割の人間も緑を身に着けていることから、癒しの色としての緑とみてよいでしょう。緑に「健やか」のイメージをもつことは日本の文化の中でもポピュラーですね。

 

 ベロニカの構成色はメイン赤、白のみです。基本的にちっちゃい姿でいることもあり、パーティーメンバーで最もシンプルな衣服の構成をしています。

 この輝く赤というのがたいへんに重要であり、先程引用した『色彩の紋章』でも「もっとも美しく、かつもっとも鮮やかな色」としてこのような赤が挙げられています。赤は布地の色として最も高貴な色です。国旗の色にもよく赤は使われていますよね。日本の旭日旗の赤は太陽のけがれなき光を表していますが、ヨーロッパでの見方は「光」ではありません。

 チビッコのころ世界の国旗暗記カードにドハマリしたことがあるんですが、裏面の解説を読んでて「やたら『〇〇で流された血を表し』て物騒なこと書いてあるなおい」と思ったのを覚えています。日本文化は血と死の穢れをすごく忌み嫌うので、このような物騒なことを言わないというのがチビッコにも無意識の感覚だったのです。しかしヨーロッパは血を忌みません。ヨーロッパにおける赤の中心的な意味は「血」です。

血がなぜもっとも高貴の色という話になるのかというと、古代・中世のヨーロッパにおける王侯貴族とはすなわち戦士・騎士たちであり、領民たちに代わって血を流すことをけっして厭わない者たちだからです。

homeshika.hatenablog.jp

貴族の血をブルーブラッドと言ったりもしますが、貴族のノブレス・オブリージュは赤い色をしているのです。ヨーロッパにおいて血の赤とは名誉であり、地位であり、活力であり、護符です。

 現代日本でも、これは実際の甲冑の色もあるのですが、「日の本一のもののふ」真田幸村にはだいたいの媒体で輝く赤が当てられます。真田幸村は戦う武士の世とともに花と散った英雄であり、現代日本人はその火花のような桜のような死にざまへの憧れに赤を用います。当然ながら、輝く赤は戦隊もののメインヒーローの勇敢の色でもあります。

ベロニカは体がちっちゃくなることやすごい勝気さで初期にはカモフラージュされていますが、賢く、道理を悟り、人の弱さや情を解し、自らの不完全さに立ち止まりもしない勇敢さと世界への自然な愛を持ったパーフェクトヒューマンです。その迷いも哀れっぽさも見せない自己犠牲はまさに最も気高い赤、花の赤をイメージカラーにするにふさわしいものです。

 

 そして二人ともに共通した色としてがあります。白は当然、純潔無垢、正義、光輝くものを表しています。また貴族のとくべつな高貴さを強く表す色でもあります。何度も言いますがドラクエなどの中世ヨーロッパ世界では9割がたの人はくすんだ色の衣服を着ており、広い面積の白をまとっているのは王族か聖地の人で、特別な清冽さを示しています。

 加えてこの二人は、布の話ではないのですが、長いまっすぐな金髪です。ヨーロッパでは髪の色も(人種差別的なことですが)キャラクターの性質を表示します。たとえばうねる黒髪の人物は悪魔的に醜いと忌み嫌われます。長いまっすぐな金髪は最良とされるシンボルで、すべての美徳と豊かさと神聖さ、永遠性を示しています。これはという鉱物への全人類的な憧れの視線であり、ケルトの英雄フィン・マックールは「金の髪のフィン」というだけでその際立った美しさと能力が示されるのです。

輝くような美しい乙女や青年を描写する際金髪と肌などの白さは必要十分条件です。輝く深緑・赤と白、金色、おまけに装身具の鮮やかな青に飾られた双子はあの世界において私たちが思うよりずっとまぶしく輝く存在なのです。この明るさの中では、セーニャの黄色い腰布も奇妙さの黄色というよりも「金」の側のものとみることができます。

 

王者と仙境の金―ロウ

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 実はそんなセニャ・ベロとほとんど同じ色彩なのがおじいちゃんなのじゃ。構成色は黄色、白とちょっとの黒です。

 ロウおじいちゃんは全体の風体としては旅の商人みたいなかっこうをしているのですが、ここまでの布色の意味からなんか只者ではなく高貴なことが匂わされているデザインだとわかると思います。白いシャツに、輝く赤をまとっているからです。ひげのおじいちゃんが赤と白をまとっていることにはみんな慣れているので、そんなに違和感もおぼえないところがまたナイスです。赤をまとったひげのおじいちゃんこと、聖ニコラウスが赤いのも、赤が高位の聖職者に用いられる色だというイメージに関連しています。

 しかも、ロウおじいちゃんが「よく見ると只者ではない」のは、この輝く赤の上着にさらに金の縁どり模様が刺繍されているところです。「輝く色の地の上に小型の金のシンボルを反復する」というのはすごく良い価値をもった模様であり、この好例がフランス王家の紋章です。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/06/Arms_of_the_Kingdom_of_France_%28Ancien%29.svg

このような規則的な反復模様は、威厳、聖性、静的さを伝え、さらに金刺繍は高価であるだけでなく先の双賢の金髪で述べたようにあらゆる美徳を表します。つまり金の反復模様はロウが王たる者であることを示すのです。

 ボトムが黄色いですが、ロウにおいてはこれはドゥルダとのつながりを連想すべきでしょう。紋章の色でもある橙~黄色はかの地の僧衣であり、少林寺拳法のようなものを操る謎の老人として登場したときからボトムの黄色は修行僧のイメージとしてはたらきます。

さらに、ロウはユグノア先王ですが、東洋的イメージをもつため東洋での黄色の意味も無視できません。中華文化圏における黄色は皇帝の色として扱われてきたとさっきチラッと言いましたが、中華皇帝の象徴「黄龍」といえば「黄金の龍」のことであり、ヨーロッパのように至上の金と忌避の黄を分けたりしません(ヨーロッパ紋章学では黄色のことを金と呼ぶ。黄色とはけっして呼ばない)。

東洋の長寿の祝いは還暦の赤からはじまり、古希(70)や喜寿(77)には紫、傘寿(80)や米寿(88)には黄色の衣服を贈ります。まあロウおじいちゃんは80代ではないでしょうけど、黄色は長寿によって高貴や神域にたどり着いた色なのです。

 

魔性のセクシーの緑―マルティナ

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 見~つめるCat's eye! magic play is dancing!

 み~どりいろにひか~~ァる!

 実はマルティナの服およびピンバッジカラーが若緑なのはヨーロッパでの伝統的な色の使われ方として見事に正しいのでずっと感心しています。マルティナの構成色はメイン明るい緑、黒です。

セーニャの項でも触れたように緑は「萌えいづる生命」「移ろいやすさ」を表します。さらに、安定して植物的なセーニャの深緑に比べてマルティナの明るい緑は「悪魔的さ」を表すことがあります。

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  映画『MASK』や『シュレック』、また鳥山フィールドで言えばピッコロさんやドラクエXのドワーフの肌色にみられるように、緑の肌は悪魔的醜さ異形の魅力を表しています。これは肌の色の話だからそりゃ異様なのは当たり前かもですが、『シュレック』では美女形態のヒロインの服にも艷めく緑色が使われています。

フィオナ姫 衣装、コスチューム 子供女性用 シュレック

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中世の緑も、春に蘇る自然の美しさを代表する色であると同時に、混乱と破壊を表す「悪魔」の色でもある。そしてフィオナ姫のドレスの緑が二人の恋物語を印象づけるためであったとするなら、これまた中世のイメージそのままである。五月の色である緑は、青春と恋愛を示すというのが、中世の緑のシンボルだからである。

―徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』

緑は中世ヨーロッパにおいては紋章に使うのをはばかられるほどの誘惑の色恋の色であり、だから混乱をもたらす悪魔的なものでもあったのです。さらにマルティナはサブカラーが黒で、黒髪の目立つキャラでもあり、これも双賢の金髪の項で書きましたが悪魔的な意味を匂わせるものです。セクシーの象徴であるバニーちゃんの市松模様スーツにも緑と黒が用いられていることからも、これらが誘惑とセクシーの色として扱われていることがわかります。

 幼少期のマルティナはかわいいピンクのドレスを着ており、その何不自由ない姫君時代から修羅場を越えておいろけの力と魔の力を飼い慣らし強くなる姿を明るい緑の服は表しています。

 そしてポニーテールの赤い髪留めがアクセントとなり、みごとに彼女を高貴の印象にとどめています。

 

逸脱者の縞―シルビア

 混乱と破壊をもたらす悪魔的なデザインといえば、緑以上に強烈で明確なのが縞模様です。

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 シルビアさんのまとう縞模様のチュニックは彼らパーティーメンバーの衣服の中でもっとも目立ち、もっとも強い意味を発しています。もっとも鮮やかな色はだって言ったじゃないかよ!と思うかもしれませんがそれは「色」の話です。「縞模様」は色ではなく「特別な構造」です。

中世西欧には、社会、文学、図像表現によって縞の衣服を与えられている人物――実在であれ想像上であれ――が多数存在する。彼らは皆、なんらかの意味で疎外されたか排斥された人たちである。そこには、ユダヤ人や異端者から道化や旅芸人までが含まれており、ハンセン氏病患者、死刑執行人、売春婦のみならず、円卓物語の中の邪悪な騎士、『詩編』の愚か者、ユダといった者たちも対象になっている。いずれも皆、既成秩序を乱すか堕落させる人たちであり、多かれ少なかれ、すべて悪魔と関係がある。

――ミシェル・パストゥロー(著)、松村剛・松村恵理(訳)『悪魔の布 縞模様の歴史』

 中世の布地の感覚は、ロウの項でも述べたように「地」の色の上に模様の「レイヤー」を層状に重ねるのが秩序だった見方です。そこから考えると平板で途切れのない二色の線が無限に並行し続ける縞模様は秩序ド破壊であり、そして現代の我々の感覚にもわかるように視覚効果として非常に目を引き、かつコントラストの強い二色の縞は目の錯覚、めまいの感覚をひき起します。ものすごく悪魔です。これにはグレイグの「市松模様」も縞ほどでないが入り、じゃっかんの珍奇さをかもしだしています。

シルビアの縞模様のチュニックにはさらに先のとがった垂れ、ポンポン飾りがあり、いわゆる「ピエロ」の衣装に類似させています。現代日本人もピエロが人を笑わせるものでありつつもどこか悪魔的であるという印象を持っているでしょう。

 

 シルビアは、おそらく青い騎士服を着ていた名門騎士のお坊ちゃんであることを捨てて家出し、世界中の人を笑顔にすることを夢みて超一流の旅芸人になりました。指導者役割や社会の固定的な秩序に巻かれて生きることの限界を重要なテーマとするドラクエ11において、これは象徴的な出奔なのです。ベロニカと並びシルビアの人間的完成度は認められていると思いますが、つまり社会の秩序を攪乱する縞模様を着たシルビアは、既にこのゲームのひとつの限界を越えた先にいるのです。

シルビアは全世界的にファッション・リーダーともなっています。またシルビアのキャラクターとしての要点のひとつに「女言葉や女性的なしぐさを使い、『乙女』を名乗るが男性的な騎士の魅力ももち、周りの者もそれを茶化したり変にツッコんだりしない」という「両性性、多様性の尊重」があります。新奇で多様で陽気で寛容なのです。

「目をひく奇抜でしゃれた装い」というのは現代では当たり前によき価値のように見られていますが、中世ヨーロッパ社会のよき市民にとっては異質であることはすなわち罪に結びつき、異質性は否定的な悪魔の価値とみなされたのです。シルビアはスター芸能人として歓呼されますが、それは旅芸人という社会の外にいる存在だから、檻の中のパンダ(実際は社会の秩序のほうが檻の中なのですが)だからというファクター込みのことです。現代とは「旅のスター芸能人」に対する見方が違ったのです。

  ここまできて、縞模様の「悪魔的」というのが現代的に見て必ずしも悪いものではないことがわかったと思います。近世・近代ヨーロッパでもその価値観は再評価され、「既存の秩序を乱す」ことからすなわち革命・独立を表す模様として扱われはじめます。縞はだからこそ目立つことを恐れず大胆で自由なおしゃれであり、動的で軽快なのです。これ↓なんてメチャメチャに目立ちますもんね。

 むしろ、ドラクエ11のようなテーマ性に縞模様の「悪魔的さ」による打破は必要なことであるとさえいえます。

 

「あわい」の紫―主人公

 そこでいよいよ「悪魔の子」主人公の衣装を見てみましょう。

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 構成色はメイン紫、黒、皮の茶色です。

 めっちゃ暗くね

 めっちゃ暗いんですよ。そうなのです。カミュの項でも書きましたが相棒との二人旅のころのお尋ね者感がナイスにかもしだされています。カミュと同じ理由で、また締まった黒のおかげで非常にスタイリッシュではあるのですが、普通に見て主人公の色じゃないよな。

 ふつうに見てめっちゃ暗いという印象はひとまずそのままにして、主人公の衣装については制作側の意図として質のいいベルベットのような紫(とサラサラヘアー)で高貴さを表現したと言われています。紫は日本古来の文化でも黄金色についで高貴な色ですし、これに関しては中世ヨーロッパでも同じでした。両者共通の理由としてパープルの染料を得る貝がら(貝紫)の貴重さがありました。日本では紫の植物染料もあるので、ヨーロッパのほうがより貴重さは増します。だから化学染料モーヴが発明されたときの熱狂は大きいものでした。

 また紫は混色であり、西洋紋章学の基本色は金・銀・紫・緑・赤・青・黒~(下の歌の歌詞です)なのですが、ややムリヤリながら感覚として紫は他のすべての色を混ぜ合わせた色とされ、すべてを持っている豊かさの力を意味します。世界一の大国の王であるデルカダール王、それに取り憑いていたウルノーガのまとう紫です。特に貝紫で染められた衣は古代ローマ帝国で皇帝や貴族の着るものであり、ローマをモデルとしたデルカダールの歴史に沿っています。赤の示す高潔による高貴さよりも、血筋に寄った高貴さを示しているイメージです。

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 しかし、高貴なのはわかったのですが、やはり主人公の色じゃねえ感が否めないのは、この紫がまたあいまいさを表す色だからです。

紫は、当たり前のことを言うようですが、赤と青とを混ぜて作る色です。赤が輝く色であり血と生きている命の熱さと高貴さを表すことは述べてきました。それに対して青は「輝く青」でもなければ嫌われた色であり、寒色で、具合が悪いことや死の側に属する色彩です。相反する象徴を混ぜて作られる色である紫は、心理的にもポジティブな意味とネガティブな意味の両義性をもっています。

 この両義性は主人公が「世界を救う星」なのか「滅びを呼ぶ悪魔の子」なのかという重大な問いに関わってきます。この「悪魔の子」という汚名について、プレイヤーはなんか勘違った王様の妄言と流すのではなくどういう意味なのかよく考える必要があります。シルビアさんの項でも述べたように、この世界において「悪魔であること」は一種の限界打破の糸口なのです。「勇者」という存在が「本当に悪いもの」である側面もあるかもしれず、そのへんについて考えるためには「主人公が暗い色の服で、悪魔の子とか呼ばれる」という価値観の転倒や葛藤をおこしてやる必要があります。

紫と白をまとった聖地ラムダの人々は明らかによいものの見た目に見えます。主人公の服が血筋の高貴さを示すだけでなく両義的な色である紫と黒を組み合わせたのは、カミュという一見不名誉な相棒とあわせて序盤にこの「悪魔の子」という言葉に立ち止まらせるはたらきをします。

 

 

 

 

と、ここまで布色の主張するキャラ役割について話してきて、最後にこれらを総合して表ラスボス一歩手前中ボスの人のおもしろ服について話そうと思っていたのですが、

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(画像はネタバレと人権に配慮して顔のところに構成色を乗せています)

字数がヤバいし明日早いので、この件についてはそのうち気まぐれに追記するということにしておきます。

追記:書いたよ

homeshika.hatenablog.jp

 

中ボスの人と似たような意味合いで私服をおおむね白で統一している照二朗でした

 

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