湖底より愛とかこめて

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断絶の諸岸から―FE風花雪月のジェンダー・イクオリティ①

 本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』における「ジェンダー・イクオリティ」(あるいはジェンダーバイアスフリー)……男女の性別役割固定の撤廃へのとりくみにまつわる表現と、作品テーマとの絡みについて整理・考察します。

 

 まずこの作品においてジェンダー問題を話題に出すのは、『ファイアーエムブレム』シリーズ自体がいわゆるセクシュアルマイノリティ(性的少数者)やジェンダーの問題にチマチマ挑戦をしてきている、というこれまでの流れがあるからです。

とはいえこのシリーズは今やニンテンドーが世界に向けて売り出してるものであり(だからこそこういった問題には対応しないとスカンをくらうのです)、その挑戦が世界の目からするとオイオイものであることもしばしばあります。今作がその点でどのように評されているかの声はまだよく知らないのですが、少なくとも当方にはいい感じの処理を、しかも作品テーマと関わるかたちでやってのけているとみえるところがありますので、書き留めておくものです。

 以下、内容のネタバレも含みます。

 

 

シルヴァン=ジョゼ=ゴーティエの繊細

 『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいに言う。

前作からの反省

 ジェンダー関連の具体的な挑戦として、前作『ファイアーエムブレム if』では同性婚が可能となりました。

しかしその同性婚、「可能なキャラクターは男女一人ずつ、それ以外のほぼあらゆる異性支援は結婚(ペアエンド)可能、同性支援は不可能」という、あまり現実的でないというか「同性婚ができる!」という小さな針穴をあける以上の目的はない感じの仕様にとどまりました。

 また同作は他にも、「主に女性に恋慕を抱く傾向にある女性に、『男性が女性に見える薬』をやらせて男性と結婚できるようにする」というセクマイとかジェンダーとかってレベルじゃねーぞ!という人権が地獄みたいなギャグが存在してひんしゅくを買っていたりと、なかなかデリカシー、すなわちセンシティブネス(問題への感受性)のない仕上がりだったのですが、はたして今回はどうなのか。

日本企業にはまだ早すぎる問題なのかこういうのは?

 

「女好きナンパ野郎」

 「女好きナンパ野郎」というのは、わかりやすく扱いやすい「キャラ属性」として伝統的に多用されながらも、「女性を『女性』としてではなく個人として見ろや」「ナンパはセクハラ加害となっていることが多い」など、昨今もっともジェンダー的ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)でチェックを受けやすい描写のひとつです。

古の代表的「女好きナンパ野郎」である光源氏は「色好み」という日本古来の美徳を体現するキャラクターですが、彼さえも「いや保護責任者強姦・義母と姦通とかどんな鬼畜だよ…」という視点で読まれる時勢なのです。

 その「女好きナンパ野郎」がですね、『風花雪月』にはなんとキャラ紹介の時点で二人もいる

こいつらナンパ野郎つながりで支援会話あるんですけど、その口説きと張り合いの中身のなさはあまりにもあまり。

やはりジェンダー・センシティブもポリコレもないのか? しかしこの二人のナンパの描写は少し意外なものだったのです。

 

ローレンツくんの場合

 そのうちの一人、「ローレンツ=ヘルマン=グロスタール」は女性をよく食事に誘うキザったらしい貴族の子息であり、胸に薔薇まで飾ったぐらいにして「高慢系ナンパ野郎」の記号のような印象をしています。

ダメだこれは。そう思ったのもつかのま、ローレンツが食事に誘った多くの女生徒たちから、彼の度重なるナンパが迷惑であるという苦情が寄せられるというイベントがしょっぱなから起こる。

まず迷惑!!!!

 今作が「ナンパは基本的に迷惑である」というちゃんとした倫理を持っていることが地味に示されます。しかし、ローレンツにも言い分があるのです。いわく、「自分は名門貴族の跡継ぎとして家を共に栄えさせる女性を選ばねばならない。そのためには多くの女性と社交し、うわべを見るだけでなく、食事の席の会話などでたしなみや器量を測る必要がある」。

(目的は)めちゃくちゃまともなこと言ってる。

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そして特筆すべきなのは、ローレンツのナンパには「女性という存在が美的に好き」とか「スケベ心」とかといった、「恋愛=エロス」による動機がまるで見られないように描写されているというところです。彼のナンパは「貴族の男としての社交のたしなみ」という貴い責務のような動機でおこなわれ、ナンパについて一般によくとなえられがちな動機、「男は性欲や承認欲を満たすために女を得たい」の外にあります。

 しかし、これは「ローレンツは普通のナンパ男と違って清廉な男だ」と表しているのではなく、「『普通の男』もまた、実は女個人への恋への欲求からではなく、『成熟した男としてのたしなみ』として女を得ようとしているだけなのではないか」ということを示唆しています。

 

シルヴァンくんの場合

 さて、見出しにもなっているナンパ野郎のいまひとり「シルヴァン=ジョゼ=ゴーティエ」は高慢系のローレンツと好対照をなす「軽薄系ナンパ野郎」の記号のような男です。

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シルヴァンはローレンツと違い「断られ、迷惑がられている」のではなく「無数に粉をかけてまあまあ成功している」のですが、それを全く一人に絞らないちょっと遊んですぐ捨てるという野放図ぶり。この軽薄もゲーム内の描写としてはだいたいの女子に「相手をするに値しない」「女をちゃんと人として見ろ」などという感じにいっそ心配までされており、ネタではなく非倫理・ディスコミュニケーションの男としてしっかり描かれています。

 そしてこのシルヴァンのナンパ、ここまで「対人関係の障害」レベルにキメているナンパだというのに、またしても「女が好きだから」というエロス的動機ではないのです。支援会話の端々から、彼が成育歴的に女性に不信感と嫌悪感を持っていることがうかがわれます。それゆえシルヴァンのナンパは

手当たり次第に先手を打って心にもないような口説き文句を弄する

→自分の本心と女性との距離をとってコミュニケーションを偽装できる

→すぐに捨てることで自分などにひっかかった女性に八つ当たり的復讐ができる

→しかも自分に関わる可能性のある女性を減らせる

という、かなり苦肉の策ながら一石三鳥なのです!

 と、このような絶望のドンづまりなので、シルヴァンに深く関わったプレイヤーはたいてい彼の精神と対人関係なんとかしてやりてえ……て心配するでしょうが、実はこういう絶望はシルヴァンだけのものではありません。

 ローレンツのナンパ動機と同じように、シルヴァンのナンパも「『普通の男』もまた、実は女個人への恋への欲求からではなく、『女を恐怖・嫌悪し見下しているから』女を(個人として尊重できず)得ようとするのではないか」ということを示唆するのです。

 

 このように、「女好きナンパ野郎」は簡単でわかりやすいキャラ属性として従来活用されてきたというのに、本作でのナンパ野郎どもはナンパは基本迷惑だし、病んだコミュニケーションだということをベースとしたうえで、

「成熟した男の証明として」「嫌悪と侮蔑の結果として」という

女性を得ようとする男性の動機の無意識に隠蔽されがちな、代表的な男性問題を浮き彫りにしているのです。

地味にエグい方向ではありますが、ここには信頼できる丁寧さがあります。

 

男女、貴賎、紋章

 と、今回は一部の描写を例にして、『風花雪月』の描写にジェンダー・センシティブをみることができそうな丁寧さがあることを語りました。次回はファイアーエムブレムシリーズの歴史におけるジェンダー関連の取り扱いの変遷とかをふまえ、本題の男女の性別役割がどうちゃらの話に入っていきます。

話題の先出しとしては、今作は学級の生徒以外でも表舞台で働いている女性が多いですよね。それはなぜなのか? 複数の理由が考えられますが、それは今作のストーリーとどう関係してくるのか?

そんなような話をしようと思います。まだ一周半も終わってないので、どんどんゲームも進めたい。ドラクエ11Sも出てしまいますしね。ゲームを進めるのが遅い照二朗でした。

 

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【追記】その②書けました↓

homeshika.hatenablog.jp